研究概要 |
「両対数方眼紙の横軸に練習回数、縦軸に作業時間を取ってグラフを描くと直線になる」という事実(練習の巾乗法則)は広く信じられているが、そこでいう「直線」には、通常大量のノイズが随伴する。本件研究においては、そのノイズの成因を突き止め、ひいては練習による技能習得の本質的メカニズムに迫ることを狙いとして、ある創作折り紙作品を長期にわたって多数回繰り返し折るという課題を選び、作業所要時間の消長を見ている。 実験参加者は平成10年度末現在通算13名である。うち1名(A)はl,000日にわたり約42,293試行を完了したあと、半年間の休止を経て最近実験を再開した。参加者E1、E2(前年度報告書ではE、Fと表記)は、1999年1月末現在、15,113試行および16,090試行を完了し、なお実験を継続している。参加者Cは1997年8月15日、293セッション10270試行までで一旦終了した実験を1998年2月18日再開し、同7月1日、382セッション13,830試行まで続行した。A、Cのデータは、次年度以降忘却に関する状況をつかむのに役立つと期待される。他の参加者(B、およびD1〜D8)の実験は前年度までに完了している。本年度の新知見は次のとおり。 1. これらの参加者のデータを両対数目盛でグラフに描いたとき共通して見られる顕著な規則的波動(前年度までに発見された)は、本年度のデータにもまったく同様に存在し、それが偶然の結果であるという可能性はきわめて薄くなった。 2. 新たに、この波動と作業時間分布が変遷していく様子の間に存在する密接かつ高感度の関係を表現する一種の図式を開発した。 3. 毎回の作業の前半および後半の所要時間の間には、中程度に高い正の相関があることが前年度から知られていたが、本年度さらに詳細に調べたところ、その相関は周期的に変動しており、常時は正に傾いているが、ときたま強く負に振れることが判明した。
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