「両対数方眼紙の横軸に練習回数、縦軸に作業時間を取ってグラフを描くと直線になる」という事実(練習の巾乗法則)は、広く知られているが、その「直線」にはつねに大量のノイズ(しばしば当事者にはスランプとして認識される)が随伴している。この研究の長期的目標は、そのノイズの成因を突き止め、ひいては練習による技能習得の本質的メカニズムに迫ることである。その第一歩として、ある創作折り紙作品を繰り返し折るという作業課題を選び、それを常識を超える長期にわたって多数回繰り返し、作業所要時間の消長を調べた。 実験参加者は延べ13名、うち3名は現在も実験を続行中である。平成12年3月15日現在、参加者PAは(途中、6か月間の休止をはさんで)ほぼ連日にわたり1395セッション60463試行を完了、また参加者PE1およびPE2は、ほぼ連日にわたりそれぞれ836および824セッション、32246および34096試行を完了した。なお、あやとりを題材とする非公式の実験(参加者8名、100セッション程度)を試みた。主な知見は次のとおりである。 1.これらの参加者のデータを両対数目盛でグラフに描いたとき見出される顕著な規則的波動は、1000試行を超えるあたりからは、ある擬似アルゴリズムに従って引いた上下の包絡線の間を往復する。 2.作業時間の分布(ヒストグラム)の時間的変遷は、ピーク間の競争として理解できる。 3.得られたデータ(あやとりに関するものを含む)について行った、連の数による統計的検定は、それらのデータが、「練習の巾乗法則にいう「直線」の上に何らかのランダムな変動が乗ったもの」という従来の解釈にはとうてい納まらないことを示している。
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