研究概要 |
本研究の目的は,自然科学,社会科学,人文科学の各分野において,ネットワーク環境下に移行する中で,学術情報伝達メディアの役割の変容を明らかにしようとするものである。本年度は,前年度に行った心理学分野の調査結果の分析を行うとともに,電子化に関して極めて特徴のある分野である物理学分野の研究者の調査を行った。この分野ではe-print archiveが存在しているが,このシステムについて調査をするとともに,6名の研究者に対してネットワーク及び電子的情報源の利用と研究の関わりに関する面接調査を行った。さらに,ここから得られた知見をもとに仮説を作成し,1070名の国内の物理学研究者に対する郵送調査を実施し,517名からの回答を得た。これと並行して,論文発表を活発に行っている国外の物理学研究者に対して,e-print archiveを中心としたメール調査を実施した。物理学研究者のコンピュータやインターネットの使用率は極めて高い一方,e-print archiveの利用は一部の領域の研究者にすぎず,冊子体の学術雑誌は9割近い回答者が「無くならない」と答えている。学術雑誌の将来については,冊子体形態と査読制は維持されると考えられる。また,e-print archive形態が他の分野にまで拡がる見込みは薄い。しかしながら,物理学のごく一部の分野には論文形式の研究発表方式に関心を示さなくなっている傾向が認められた。さらに電子雑誌の調査を行い,冊子体雑誌の電子化が急速にに進んでいるが,研究者による利用は少ないことなどが判明した。
|