GUI方式のOSであるWindowsの普及により、重度視覚障害者のパソコン利用環境は相対的に悪化した。なかでも、独力でのソフトウェア開発が困難になってきたことは、情報処理技術者としての就労の可能性や、障害補償ソフトの自力開発の可能性を閉ざす深刻な問題である。 このような背景の下、本研究では以下のことを行った。 1)重度の視覚障害を持つ情報処理技術者を対象に、Windowsの使用状況とソフトウェア開発の現状を調査した。その結果、スクリーンリーダの開発や機能の向上によってWindowsの使用環境は徐々に改善されてはいるものの、未だ問題が多く、その原因の一つにはこのシステムを学習する機会の不足であることが明らかになった。また、Windowsの下でのソフトウェア開発における困難が、具体的に判明した。 2)Windowsの体系や操作法を非視覚的に教育するための点字教材や触図教材、指導法を開発し、それらの使用効果を確認した。 3)Windows用ソフトウェアを非視覚的手段で開発する方法を確立した。開発環境の構築には、点字ディスプレイや音声出力を用いた。非視覚的方法でのソフトウェア開発における困難の一つである画面表示の設定については、文字列によるリソース定義の手法で解決を図った。実行結果や表示レイアウトの独力での確認には、オプタコンを活用した。 本研究では、GUI環境の下で重度視覚障害者が独力でソフトウェア開発を行う方法を確立した。しかし、この方法の有効性は、現段階ではまだ小規模で単純なソフトウェアの開発に対してしか確認できていない。さらに、その範囲内においてもいくつかの問題点が残されているのが事実である。今後さらなる研究の継続が必要である。
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