研究概要 |
これまでの多目的最適化手法が意思決定者に提供したのはパレート解すべての集合であり,その膨大な数の中から1つの妥協解を選択するにはかなりの熟練が必要であった.しかし,多目的最適化が身近なものとなった今日、意思決定者はそのシステムの末端ユーザにしか過ぎず,熟練を期待するなど一般には不可能である.実際,カーナビゲーション・システムでも多目的最適化が行なわれており,目的地へのルートの候補が複数モニター上に表示されるが,その中からドライバーが車の運転と同時に妥協解の選択までを行なうことは容易ではない.そこで今年度の研究では,このカーナビゲーション・システムをモデル化した2目的最短路問題について研究を行ない,強多項式時間で1つの妥協解を算出するアルゴリズムを2つ設計した.1つは意思決定者の効用関数が準凹関数として表される場合,もう1つは準凸関数として表される場合に有効である. また,多目的最適化を最も簡便に行なう方法として目的関数達の積を最適化する方法が知られているが,これを効率的に行なうため,分枝限定法に基づくアルゴリズムについての研究も行なった.基本的なアイデアは限定操作を2段階に分けて行なうことだが,限定操作にかかる総計算量は従来のままに押さえることができた.既存の方法では5目的以上の問題の大域的最適解を現実的な計算時間で算出することは不可能であったが,構築したアルゴリズムでは15目的までの問題であれば変数の数が百を越えても効率的に解決できることを確認できた.分枝限定法は元来,組合せ最適化のための主要なツールであるが,この例が示すように多目的最適化から派生する非凸型最適化問題の大域的最適化に対しても効果的である.そこで,分枝限定法による大域的最適化の可能性について様々な観点から考察し,評論としてまとめあげた.
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