研究概要 |
本年度の研究においては,2人の主体の間の「囚人のジレンマ」,および多人数の主体の間の社会的ジレンマの一つの形態である「湖の汚染をめぐるジレンマ」の2つの社会的ジレンマを取り上げ,ゲーム理論,特にその一つの解である「安定集合」を用いた分析を行った. 1 囚人のジレンマ:逸脱の連鎖を考慮しない場合には,2人の主体が共に「協力する」か共に「裏切る」状態が安定な状態になること,また,選択の確率混合(混合戦略)を許すと,すべての確率混合の組が安定な状態になりうることを示した.なお,2人の主体の間の話し合いを許した場合には安定な状態が存在しないことも明らかにした.さらに,逸脱の連鎖を考慮した場合には,2人の主体が独立に行動すれば,逸脱の連鎖がない場合とほぼ同じ結果が得られるが,両者の間の話し合いを許したときには,たとえ協定に拘束力がなくとも,2人の主体が共に「協力する」する状態のみが安定な状態となること,また混合戦略まで考えた場合にはパレート最適な状態のみが安定な状態となること,を明らかにした. 2 湖の汚染をめぐるジレンマ:逸脱の連鎖を考慮しない場合には,囚人のジレンマと同様,明確な結果が得られないが,考慮した場合,特に2人の主体の間の話し合いを許した場合には,多くの工場が自発的に排水を浄化してから湖に放出するという協力的行動をとる状態が実現されることを明らかにした. 以上の結果から,逸脱の連鎖を考慮した安定集合の方が,社会的ジレンマの分析においてはより適当な概念であることが明らかになった.来年度以降は,この概念を用いて「共有地のジレンマ」など他の社会的ジレンマを分析すると共に,社会的ジレンマの解決にはどのような方法をとればよいかを考えていく予定である.
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