本研究の目的は、対流モデルを用いたシミュレーションによって活発な積乱雲に伴う強風がどのようなメカニズムによって起こるかを知ることである。昨年度に引続き、今年度も雲解像モデルをよりよいものにするため、英国気象局のモデルとオクラホマ大学で開発されたarpsというモデルを使い、活発な熱帯のスコールラインのシミュレーションを行ない、その結果を比較した。その結果、arpsに含まれている数値的な拡散係数を小さくすることによって、他のモデルに匹敵するような強さの対流がシミュレートできることが分かった。 また、今年度はさらに、実際に観測された3次元の温度・湿度・風の場における対流のシミュレーションを行なうため、気象庁の数値予報モデルの出力をarpsに取り込めるようにモデルを改良した。このモデルを用い、1988年7月17日に梅雨前線上に生成した活発な対流雲のシミュレーションを行なった。初期条件、境界条件としては、気象庁の作成した客観解析データを使って同じく気象庁が作成した日本域予報モデル(格子間隔、30kmと10km版)を多重にネスティングして予報した値を用いた。この結果、ライン状に組織化された降水システムが生成し、長時間維持され、観測されたものと同じような移動を示した。しかし、生成したシステムの位置は、観測のものが対馬付近に生成したのに対し、九州北部西方となった。同じ客観解析データを使った予測でも米国のPSU/NCARが開発したMM5と呼ばれるモデルでは、対馬付近に降水システムが生成している。この差は積雲対流のパラメタリゼーションによるものと推測されるが、今後、これらの結果の比較を通じて、その原因を調べ、これらのモデルを国内での積乱雲に伴う強風の事例に適用して、強風生成のメカニズムを調べる予定である。
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