本研究の目的は、対流モデルを用いたシミュレーションによって活発な積乱雲に伴う強風がどのようなメカニズムによって起こるかを知ることである。これまで、いくつかのモデルでスコールラインのシミュレーション、梅雨期の降水系のシミュレーションなどを行ない、モデルの違いなどを調べてきたが、今年度は最終年度にあたるため、活発な積乱雲に伴う地表付近の強風についてのシミュレーションを行なった。 事例として取り上げたものの1つは、1997年8月3日に日光で観測されたものである。このとき、上層には強い風はないにもかかわらず、地表で瞬間風速で毎秒44mを越す強風が観測された。観測された成層を使ってもこのような強風は再現できなかったが、地形性などの要因で起こり得ると思われる適当な強制力を与えて対流を起こした。その結果、毎秒25m以上の強風を再現することができた。数値モデルに組み込んだトレーサーでの解析によると、この強風は高度4〜5kmの上空から降りてきた気塊で作られているが、この高度までの一般場の風速は毎秒10m程度であり、一般場の風が下層に運ばれてきたことではこの強風が説明できない。一方、この時、積乱雲中の雨滴のドラッグと蒸発による冷却によって作られた下降流は半径2km程度の領域で高度1kmで毎秒10mに達しており、これが地表付近で曲げられることによって高度数100mまでの領域で毎秒20mを越す風速が起こることが分かった。 このように地表付近の強風の生成にはいくつかのメカニズムがあり、その予測にはそれらを組み合わせて使う必要があることが明らかになった。
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