本研究の目的は、活発な積乱雲中の主な上昇流・下降流を解像できるほど詳細な雲モデルを使い、積乱雲に伴う下層の強風をシミュレートすることによってその生成のメカニズムを調べ、積乱雲に伴う強風の予測モデルを構築することである。このためには雲解像モデルが十分よく実際の強風を再現する必要がある。本研究ではイギリス気象局の雲解像モデルとオクラホマ大学で開発されたARPSを使ったモデルの有効性を調べるために、雲解像モデルの比較実験に参加した。ここで最初に行なったのは、GCSS(GEWEX Cloud System Study)の第4ワーキンググループが提唱した比較実験のうち、熱帯海洋上のスコールラインの再現実験である。様々な設定でスコールラインを再現し、その中での構造、維持過程などを比較した。多くのモデルでスコールラインの基本的な特徴、すなわち、降水の蒸発による冷たい下降流、その上に上昇する暖気中での降水の生成、中層の後面からの乾燥気流などを再現し、長時間維持される結果が得られた。しかし、鉛直速度、降水量、加熱量など詳細はモデル毎にかなり違っていた。特に、ARPSは粘性・拡散が大きく、対流が他のモデルに比べて不活発あった。実際のデータを使った比較としては梅雨前線帯の降水バンドの再現実験も行った。これらのモデルを使って、強風が観測された日の成層・風速分布を使って地表付近の強風の再現実験を行った。日によって成層の静的安定度・湿度・上層の風速などが違うため、トレーサーで調べた下降交流の起源は様々な高度になり、また、強風の成因としても、浮力による下降流の寄与と下降流の起源となる上層の風の寄与の割合が様々な場合があることが示された。このように地表付近の強風のその予測にはこれらを組み合わせて使う必要があることが明らかになった。
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