集中豪雨や豪雪をもたらす激しい降水系は、メソスケール(中規模、水平スケールで数10kmから数100kmの規模)に組織化された対流システムである。これをメソ対流系と云う。本研究の目的は、このメソ対流系について速度場と熱力学場のリトリ-バル法を開発し、その力学的構造やメカニズムを明らかにすることである。本年度はリトリ-バル法についての文献調査を行った他、メソ対流系のモデルを整備した。メソ対流系スケールの数値モデルは、非静力学圧縮系を基礎方程式とするものを用いるが、このタイプのモデルを整備した。このモデルの境界条件は、より広域を覆う日本域スケールの静力学近似のモデルの出力から与えるようにし、時間変化する境界条件を取り入れられるようにした。また、静力学モデルは対流をパラメタライズして与えるが、そのパラメタリゼーションについて検討した。検討したパラメタリゼーションは湿潤対流調節の他に、Kuo-Anthes(KA)、Kain-Fritsh(KF)、Arakawa-Schubert(AS)の3つのパラメタリゼーションで、これらを用いて1993年7月16〜17日に西日本で見られた梅雨前線に伴って連続的に発達したクラウドクラスターについてシミュレーションを行なった。これら4種類のパラメタリゼーションを用いた数値実験は、低気圧や前線の位置などの総観規模の全体的な様相についてはどれもよくシミュレートした。しかしながら、梅雨前線に伴うメンスケールの降水は対流のパラメタリゼーションに敏感であった。この期間、九州地方では連続して発達したクラウドクラスターによって強い降水がもたらされた。この特徴は、ASの方法を用いたモデルでシミュレートされたが、そのほかのものではこれが十分表現されなかった。次にASのパラメタリゼーションの雲のタイプを2個に減らし、敏感度テストを行った。その結果はどれもこのようなメンスケールの降水を表現することができなかった。これらの結果は、傾圧性が弱く対流不安定が強いことで特徴づけられる梅雨前線とそれに伴うメソスケールの降水のシミュレーションには、ASスキームのような詳細な対流のパラメタリゼーションが必要であることを示している。
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