集中豪雨や豪雪をもたらす激しい降水系は、メンスケール(中規模、水平スケールで数10kmから数100kmの規模)に組織化された対流システムである。これをメソ対流系と云う。本研究の目的は、このメソ対流系について速度場と熱力学場のリトリーバル法を開発し、その力学的構造やメカニズムを明らかにすることである。本年度はドップラーレーダーデータの整備と雲解像モデルの整備を中心に行った。 ドップラーレーダーのデータは1997年に行われた九州西部降雨特別観測の時得られたものと、1998年の梅雨期に中国の准河流域で行われた特別観測のデータを対象とした。前者の観測では梅雨前線に伴う降水バンドが多数観測された。ドップラーレーダーはほぼ南北に基線を持つように3台が配置され、速度場のデータが得られるようになっていたので、2台ずつの組合わせから、比較的広い領域の速度場のデータが得られた。この年の梅雨は九州地方に大量に降水をもたらせ、災害が起るほどであった。これらの降水系についてよいデータセットが取得、整備できた。また、後者のものについては三角形の各頂点にドップラーレーダーが配置されており、より精度のよい速度の決定ができる。今回の観測では観測点を通過する梅雨前線を観測できた他、非常に顕著なスコールラインの通過が1事例観測され、リトリーバルを行うためのよいデータセットとなった。 数値モデルについては、すでに開発されている米国オクラホマ大学のARPS(AdvancedRegional Prediction System)とわが国の気象研究所の非静力学メソスケールモデルの2つを整備した。これらのモデルのテストシミュレーションとして、1997年の梅雨期に発生した九州西海上の甑島の風下の降水帯、1988年のクラウドクラスターの数値実験を行った。
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