申請者は、最近、原子炉高速中性子(>0.1MeV)照射した炭化珪素(SiC)単結晶中に780nm吸収帯、また、ESR測定により常磁性欠陥中心の生成を観測した。これらの欠陥中心が、半導体としてのSiCの特性に与える影響を知ることを目的として研究を行った。今年度(平成9年)は、この科研費の助成で購入した4H及び6H-SiC単結晶について、京大原子炉(KUR、5MW、軽水減速炉)、東大炉(YAYOI、高速炉)、京大炉ライナック等で照射し、導入された照射欠陥について、その性質やモデルの同定を、照射量依存性、照射温度依存性或いは熱回復過程等について調べた。また、電気特性の変化についても調べた。 これらの結果、1、光吸収観測により得られた780nm吸収帯の起源が、ESR測定によりSi空孔中に捕獲された電子の吸収によるものと同定されたTl中心と、これらの熱回復過程の類似性から同一のものとした。 2、京大炉低温照射装置を用いて行った照射実験から780nm帯生成効率の照射温度依存性は、常温照射時より100K以下の照射時により低くなり、200Kで極大値を持つことが分かった。これからSiC中の欠陥生成効率が、金属中のフレンケル欠陥や、多くの酸化物中のF中心の生成効率が低温でより高く、高温になるほど指数関数的に減少するという、これまでの常識と少し異なった性質を持っていることが分かった。 3、電気特性の熱回復過程の観測結果から、照射により減少したキャリア濃度は照射温度(約350K)から800Kまで変化しないこと、ホール易動度及び電気抵抗率は約800Kで共に約40%回復すること等が分かった。 平成10年度は、今年度得られた結果の原因究明と、熱中性子照射したSiC中に^<29>Si(nγ)^<30>Si反応で生成される^<30>Pのドナーとしての働きを、^<30>Pをイオン注入した試料と比較検討する実験も合わせて行う。
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