実証炉以降での実用を目指し、研究代表者を含む東京大学のグループによって開発された核融合炉炉心構造材料の候補材JLF-1鋼について、中性子重照射下を含む種々の環境下における強度特性評価が、主として微小試験片技術を用いて広範に実施された。JLF-1鋼のようなフェライト/マルテンサイト鋼の照射環境での使用にあたっては、照射による延性脆性遷移温度の上昇(照射脆化)が大きな問題となるが、本研究の結果から、微小シャルピー試験片を用いた最大約60dpa照射の条件下においても、JLF-1鋼の場合、最高遷移温度は約20dpaにおいて255K程度であることが示され、依然として室温以下に留まるものであることが明確になった。また、遷移温度の試験片サイズ依存性は極めて弱く、遷移温度評価の標準サイズ試験への外挿が直接可能であることが示された。このことは、耐ボイドスウェリング性などの優れた照射下組織安定性とともに、JLF-1鋼が照射下での強度特性の面においても極めて安定であり、核融合炉炉心構造材料として十分機能し得ることを示したものといえる。SSJサイズ、Wサイズ試験片を用いた引張り試験を室温および高温(照射温度)において系統的に実施した結果、0.2%耐力の照射量依存性は最初照射量とともに増加するが、15〜20dpaにおいて極大を示しさらに照射を行なうと逆に低下する傾向にあることが示された。低下は約35〜40dpaにおいて緩やかとなり、それ以上の照射量においては一定値を保って飽和する傾向にあることが明らかになった。DBTTの照射量依存性も約15〜30dpaにおいて上昇の極大を示す傾向にあることから、引張り試験の結果と合わせ考えるとこのDBTTの変化は、主として照射硬化に起因していることが明らかであって、JLF-1鋼の場合、照射特有の有害な析出等による脆化を危惧する必要は無いことが結論出来た。
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