京都大学原子炉実験所から平常時に放出されるトリチウム(HTO)の主なソースタームを究明するために、研究炉(KUR)の近傍における炉室内空気中の濃度を測定した。その測定は、採取した凝縮水を液体シンチレーションカウンタを用いる方法により実施した。スタックへのHTOの排気経路は主に、(1)一次冷却水が蒸発する炉頂からのスィープ配管系統、(2)炉心に隣接して設置されている、重水素水を用いた冷中性子設備からの配管系統、(3)同じく炉心に隣接した重水設備(1階)とそのリザ-バタンク(地階)並びにその配管系統、(4)炉心に設置されている実験孔で(1)のスィープ系統以外の排気用配管系統、(5)炉室内の換気のためのOnce through方式の排気系統、の5系統である。これらはすべて地階の立入制限区域に排気され、煙道を経由してスタックから排気される。 一次冷却材中に含まれる重水が放射化されたことにより生成するHTOの水中濃度は、最近、炉水が更新されたこともあり、4Bq/mlであった。この蒸発による放出率と系統に連結された実験孔からの放出率の合計は0.5MBq/日程度であった。(2)からの排気は2L/分で減衰タンクを経由して地下へ放出される。この凝縮水中濃度は1×10^4〜2×10^5Bq/mlと高く、かつ変動したが、平均放出率は2.9MBq/日と算定された。(3)からの排気の凝縮水中濃度は2×10^5Bq/mlと高いが、排気率は0.4L/分と低いため、放出率は1.2MBq/日程度である。(4)からの放出率は、凝縮水中濃度が2×10^2(換気中)〜3×10^3Bq/ml(換気停止中)であり、流量率も自然排気により10L/日程度であるため、放出率は0.14MBq/日と少ない。(5)の室内における下流の濃度は、換気開始からの経過時間につれて低くなる傾向はあるが、凝縮水中濃度は金曜日で3Bq/mlである。しかしながら換気流量が2×10^4m^3/hと大きいため、放出率は14.4MBq/日と多くなる。これら5経路のうち、(2)及び(3)の排気中水分は電気的に除湿され、HTOが回収されている。そこで、残り3経路の放出率の合計は15MBq/日となる。他方、スタック排気中の木〜金曜日の濃度は、1〜0.5Bq/mlと週の始めより減少するため、これを0.8Bq/mlとした放出率は15.2MBq/日と算定され、各経路ごとの合計値とほぼ一致した。従って原子炉運転中における排気経路ごとの放出比率が明らかにされた。
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