研究概要 |
核融合装置内のプラズマ対向壁において起こるイオン・固体相互作用を評価する計算機シミュレーションコードを開発した。特に,(1)多種イオンの同時衝撃,(2)衝撃イオンの幅広い速度分布とプラズマシースによる加速,(3)高粒子束イオンの蓄積による固体の表面改質,(4)放出粒子の周辺プラズマ中でのイオン化と磁界によるラーモア運動,などは,ビーム実験において評価が難しく,プラズマ対向壁の損耗や不純物発生に重要であるので,これに注目してコードを開発した。このコードを,ダイバータ用候補材として研究されているタングステンへ適用し,不純物(CとO)イオンによるスパッタリングが主たる損耗過程であることや,スパッタ粒子がイオン化し,磁界によるラーモア運動によって再付着する現象が,タングステン材の損耗や不純物放出を大きく減少させることを示した。さらに,ドイツ・ユ-リッヒ研究センターのTEXTORトカマク装置において,タングステンのテストリミターを挿入し,リミター近傍の不純物線スペクトル強度分布を測定し,シミュレーション結果との比較を試みた。これまでに,測定したWI線とCII線の強度分布がスパッタリングで放出されたW原子とC原子の電離分布と一致すること,Dγ線やOII線の分布は衝撃イオンの反射のみによる分布より速く減衰し,多量の低エネルギー重水素と酸素の放出があることが判明した。その原因について現在検討している。また,現在,対向壁から発生する不純物によるプラズマの放射損失を低減するため,対向壁全体をボロン膜で覆うその場コーティングが用いられる。このボロン膜のTEXTORプラズマ照射による損耗特性を,ボロンコーティングした試験片を挿入した実験と計算機シミュレーションによって調べた。試験片上の膜厚の減少(あるいは増加)は,実験と計算で良く一致した。特に,膜厚の増加が,表面への不純物炭素イオンの堆積によることが明らかとなった。現在,炭素の深さ分布について実験と計算の両面から調べている。
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