98年1月から3月にかけて、周辺での人間活動が低い石狩町美登位(札幌の中心から北北西20km)で約1時間間隔で採取し、冷凍保存していた降雪試料を融解させ、化学分析を行った。降雪粒子の自動連続観測記録や大気汚染物質の観測結果、レーダ画像、気象衛星画像などを使って、解析した。1997年1月に人為的影響のほとんどない北海道母子里で行った観測結果も併せて、酸性ガスの取込みという視点から考察した。 気相成長する雪結晶の場合だけでなく、雲粒捕捉成長が卓越している場合にもHNO_3ガスやHClガスが掃去され、降水の酸性化に寄与していることがわかった。これらのガスが検出されたケースはいずれも地上付近の風向が東から南で、陸上を吹走した気塊であった。このため、観測点ではNO_2が10ppb前後と都市部からの大気汚染物質が運ばれてきていた。しかし、フィルター法によるHNO_3濃度は0.02〜0.12ppbと極めて低い値であった。また、HClガス濃度も0〜0.3ppbしか検出されなかった。Diehl et al.(1995)によるガス吸着実験はこの100倍以上のガス濃度で行われたものであることから、今回の観測では観測点付近の地上の都市大気汚染の影響を受けたものではないと推測される。人為的汚染源の影響が少ない観測点でも、気相成長か雲粒捕捉成長かに関わらず、HNO_3ガスやHClガスが降雪粒子によって掃去されていることがわかった。したがって、降雪粒子によって掃去されたHNO_3ガス・HClガスはローカルな都市大気汚染に発したものでなく、雲と共に運ばれてきたものと考えられる。nss-Cl-が検出されない試料もあったが、塩素損失を起こした海塩粒子が同時に捕捉されたことで説明される。
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