現在、環境汚染や環境破壊が大きな問題となってきているが、自然を回復させるためには、もはや物理、化学的な手法には限界があり、植物に頼らざるを得ないことは明白となってきている。植物は環境の変化に直接厳しく接してきた生物である。植物が常時行っている元素のリサイクル活動を詳細に調べることにより、環境に対処する新しい知恵を探ることが可能ではないだろうか。このような問題意識の上に立って、植物個体中の元素動態を調べてみた。 手法は、非破壊状態で多元素の絶対測定が可能である放射化分析を用いた。本研究では、まず、ブラジルの半乾燥地に自生しているカーチンガ樹種について、元素の土壌と根の分配、根と植物地上部との分配などを調べ、その地域における最も有効な植物資源の有効利用法について考察した。その結果、2価のカチオン、CaやMgの吸収の差が樹種によりかなり異なることが見いだされ、土壌活力を維持するためにも、2価のカチオン吸収量の低い樹種を選択的に利用することが望ましいことが判った。 次に、アサガオを用いて、一個体中の元素の動態を発根から結実まで、全ての組織を採取し、元素動態を調べた。その結果、植物個体中には全ての組織において各元素のgradientが形成されており、生育の過程の必要度に応じて元素が移動していくことが示された。また特に、重金属については、結実した実中にはほとんど移動せず、次世代を保護する働きも確認されている。これらの実験結果は、植物を生きているシステム体として解析していくことが重要であることを示唆している。そこで、我々は今回得られた植物体の元素分析のデータをもとに、本研究をさらに発展させるべく、重要な穀物であるダイズを用いた実験を進めている最中である。
|