水界堆積物から核酸を抽出するため、われわれの開発したハイドロキシアパタイト・スピンカラム法に改良を加え、生物活性の低い試料からも比較的高純度の核酸を得ることが出来た。 木崎湖(長野県)の湖心部堆積物から得たRNAとオリゴヌクレオチド・プローブとの定量的ドット・ブロット・ハイブリイダーゼーションを行い、硫酸還元菌の属レベルの動態を明らかにした。その結果、硫酸還元は主にプロピオン酸を基質としてDesulfobulbusが担っていると結論された。 東京湾奥部の浚渫窪地(D)と自然海底(B)の堆積物よりも硫酸還元菌の属レベルの動態を同上の方法で調査した。その結果、水の停滞しやすいDでは、Bよりも硫酸還元速度が高く、酢酸のみを利用するDesulfobacterが優占するが、Bでは硫酸還元菌の属組成は複雑であった。また、木崎湖と異なり、硫酸還元菌群の全生物に対するRNAの比率と硫酸還元速度との相関は低いか、認められなかったが、堆積物中の全ATP量にrRNA indexを乗じて求めた硫酸還元菌のATP絶対量と硫酸還元速度とはDで相関が認められた。 琵琶湖北湖(滋賀県)の深底堆積物におけるメタン生成と硫酸還元速度の季節変化、およびメタン生成菌と硫酸還元菌の動態を同上の方法で調査した。全生物に対するグラム陰性硫酸還元菌のRNA比率は垂直的にほとんど変化せず、木崎湖、東京湾に比べて著しく高い値(平均35%)を示し、硫酸還元速度との相関も認められなかった。硫酸還元菌DesulfobulbusとDesulfobacteriumのRNA合計の全細菌に対する比率は2-5cm層で硫酸還元速度の高い冬季に上昇したが、速度との相関は認められなかった。メタン生成菌を含む古細菌のRNA比率は垂直分布は深度とともに増加したが、非常に低く、メタン生成菌の属レベルのプローブでは検出出来なかった。
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