融雪水の酸性化動向を予測するには、積雪試料を融解させてpH値の変化を調べたマクロな単位層解析手法のほかに、X線CTスキャン法による、雪結晶内部のミクロな化学物質濃度の分布構造を解析する手法が有効である。この手法によって、X線断層写真と同じように、物質濃度の分布特性が分かるからである。 X線CTスキャン法の解析結果から、琵琶湖集水域や北アルプスの立山の雪渓および北極地域スピッツベルゲン島の氷河上で採集された雪結晶内の酸性物質のミクロな分布は、北欧や北米などで従来報告されているような雪結晶の外側部分にのみ集中する単純な構造ではなく、酸性物質が雪結晶の外側から内側にかけて複雑な分布構造をしており、そのことが温暖変態過程の卓越する積雪地域に一般的な現象であることが分かった。従って、雪結晶の外側からはじまる融解現象が進行すると、融雪後期においてさえも、結晶の内側部分に分布する酸性物質が融出してくる、と解釈できる。 温暖な琵琶湖集水域では厳冬期でさえも、また立山や北極地域であっても夏の雪渓や氷河上では、積雪は融解・再凍結をくり返すことによって、化学物質濃度の高い部分が雪結晶内部に複雑に分布するプロセスが進行するので、融雪初期の雪解け水が流出したからと言って安心はできない。融雪後期には、融解が雪結晶の内部にまでおよび、さらに酸性の雪解け水が流出することがあるからである。そこが、酸性の雪解け水による湖沼や河川の酸性化予測や水生生物への影響評価、および将来の酸性化対策を考える場合、酸性の雪解け水が融雪初期に集中して流出する北欧や北米などの融解・再凍結作用の頻度が少ない地域の現象と違うことに留意する必要がある。
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