X線CTスキャン手法によって明らかにされたザラメ雪結晶内部のミクロな酸性物質の分布の一般的特性から、雪結晶内部でのCT値の高い領域、つまり酸性物質の分布をみると、結晶内部に酸性物質が不規則に分布する構造が一般的に認められた。 このようなパターンは、いくつかの小さなザラメ雪が複合して大きなザラメ雪が形成された可能性があるので、偏光顕微鏡によるザラメ雪の薄片写真観察をおこなったところ、ひとつのザラメ雪結晶が複数の結晶によって構成されていることが分かった。また、立山内蔵助雪渓の大粒ザラメ雪のCT値分布をみると、このザラメ雪は融解再凍結をくり返してできたものと考えられるが、その過程で酸性物質が雪粒内に取り込まれ、CT値の高い領域が結晶内部に分布するようになった構造と推測される。このようなパターンが、本研究を始めるに際しての作業仮説的な基本構造であったのである。 いずれにしても、X線CTスキャン手法によって明らかにされたザラメ雪結晶内部のミクロな酸性物質の分布の一般的特性から、マクロな流域環境の酸性化の影響を評価すると、酸性物質が濃縮した領域がザラメ雪結晶の内部にも形成されているので、融雪初期のみならず、酸性物質が濃縮している雪結晶内部まで雪解けが進む融雪後期にも、酸性の融雪水が流出してくる可能性が高い、と解釈できる。つまり、雪結晶内の融解初期の酸性融雪水が流出したからと言って、安心はできないことになる。融解が雪結晶の内部にまでおよび、さらに酸性の融雪水が流出することがあるからである。そこが、酸性の雪解け水が融雪初期に集中して流出する北欧や北米などのような従来の酸性ショック現象と違うところである。
|