研究概要 |
本研究では、酸性雨起因物質のうち微生物起源の硫黄化合物として最近注目されているCOSおよびDMSについて、硫黄の同位体組成の観点から環境における動態を解析しようと試みるものであるが、本年度は昨年度に続きCOSの生成に関する基礎的な同位体化学的検討を試みた。COSは一般に土壌中の微生物Thiobacillus thioparusにより、チオシアン酸化合物から生成されるといわれる。基質をチオシアン酸カリウムとして,土壌からスクリーニングしたThiobacillus thioparusを培養し、発生したCOSについて硫黄同位体比の測定を行ったところ、+3.8パミルであった。一方チオシアン酸カリウムから化学的に生成したCOSについても同様に硫黄同位体比の測定を行ったところ、出発物質であるチオシアン酸カリウムの硫黄同位体比+6.1パミルと同じδ値が得られたことから、微生物の作用により硫黄同位体分別が行われていることが確認された。これらの結果をこれまでの研究成果と併せて、動態解析に用いる計画である。 一方DMSは海洋での微生物作用から生成されるといわれるが、赤潮発生時にその生成量が爆発的に増加するとの報告があることから、出発物質が必ずしも海水硫酸塩とは限らず、富栄養化にともなう汚染硫黄化合物も寄与していると考えられる。なお赤潮発生時にDMS生成に関与する微生物は数種類特定されているが、渦べん毛藻の寄与が大きいとの報告をもとに、これを培養し、出発物質を多様に変えてその生成機構を明らかにしようと試みた。しかし、バクテリアとは異なって培養が難しく、DMS発生を検出するには至らなかった。この計画は次年度に、赤潮発生海域において赤潮発生時と非発生時にその海域の海水中に存在するDMSを採取し、硫黄の同位体組成から出発物質(海水硫酸塩あるいは汚染に関与する有機硫黄)を特定する計画である。
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