本研究では、環境を酸性化する硫黄化合物の中で、自然起源をもつ硫化ジメチル(DMS)と硫化カルボニル(COS)に着目し、それらの環境動態を解析するために硫黄同位体比の測定を目標として種々の研究に取り組んだ。それらの研究成果を、第1部硫黄化合物を起因とする環境の酸性化、第2部硫化カルボニル生成に関する同位体化学的研究、としてまとめる。 第1部では、DMSが赤潮の際に大量発生するという報告から、環境の酸性化に赤潮も間接的に寄与しているとの仮鋭を立てた。まずは赤潮を予知するセンサーの開発、次いで赤潮原因藻の中でDMSを発生する藻類の培養を試みる等赤潮に関連した研究を行った。DMSを検出・定量をするために、ガスクロマトグラフィーによる分析化学的研究も試みた。最終目標は海洋表面の大気からDMSをサンプリングし、その硫黄同位体比を測定することである。従って不安定なDMSをいかに捕集して実験室まで安定に持ち帰るか、捕集法について検討を行った。 第2部では、COSをバクテリアから実験室的に発生させ、それを捕集して硫黄同位体比を測定し、基質として与えたKSCNの生物作用による硫黄同位体分別を調べた。同時に、KSCNから化学反応によるCOSへの生成過程においては、同位体分別が起こらないことも確認した。やがてはこの捕集法により、土壌から放出されるCOSの硫黄同位体比を測定し、海洋からのDMSおよび人為発生原としての石炭・石油(すでに数多くの試料について硫黄同位体比測定を行った)の硫黄同位体比、自然起源の代表的硫黄化合物である海水硫酸塩の硫黄同位体比とあわせてデーターベースを構築し、環境試料中の硫黄の起源を推定するとともにDMSおよびCOSの環境における動態の解析に役立てる計画である。
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