本研究では、屋内外に展示されているブロンズ製彫刻のアシッドライン(線状の腐食)のメカニズムを究明することを目的とし、異なった環境での大気汚染調査とブロンズの化学組成との関係について検討した。 金属試験板、大理石試験板の環境暴露試験として、市販あるいは溶製されている大理石、青銅(BC6)、古銅(東大寺大仏殿屋根材の再現)、銅(JIS-H-3100)、炭素銅(JIS-G-3141)を使用して、屋内外の暴露試験を行い、同時に環境汚染物質の測定も併行して行った。大理石では環境の汚染度の指標となること、銅製品金属試験板では、青銅中の亜鉛と鉛に及ぼす環境因子の影響が顕著に認められ、塩基性硫酸銅、塩基性硝酸銅の生成が確認され、塩基性炭酸銅は検出されなかった。ブロンズの化学組成により腐食の進行が異なることを定性的に見出したので、本研究では、(1)東大寺八角灯篭の再現(Cu94% Sn2.5% Pb1% As2.5%)、(2)ロダンのブロンズの組成(Cu94% Sn4% Zn1%)、(3)ロダンのブロンズから亜鉛を除いた組成(Cu95% Sn5%)、(4)JIS規格の青銅(BC7)の4種類のブロンズ製テストピースを専門の鋳造家に依頼して作成し、博物館の屋内外の暴露試験・リーチング試験を行った。暴露期間が短いため、明確な結果を得るまでに至っていないが、さらに、環境暴露を継続的に行っているので、今後の調査により明らかになるものと期待される。 大気環境の異なる3博物館(都市部の中心地域、沿岸地域、火山地域)における雨水と博物館内・外での大気環境(ガス、ミスト)中の汚染物質の計測を行った。大気汚染物質の量は、発生源に関係するが、季節的な変動やその輸送経路としての気象条件が関与することが見出だされた。また、環境によるブロンズの腐食に違いが見られ、環境汚染因子との相関性が認められた。
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