細胞に低線量の放射線を予め照射すると、その後の高線量の放射線に対して抵抗性となる放射線適応応答と呼ばれる現象がある。この放射線適応応答の分子機構を探るために、本研究では2本鎖切断の再結合反応とその際の誤りを検出するための試験管内反応系を構築し、それを用いて放射線適応応答状態にある細胞での2本鎖切断修復機能の解析を行った。X線3Gyを照射した細胞の核抽出液を用いて線状化したプラスミドDNAを処理すると、再結合反応の効率は非照射細胞に比べて約30%に減少したが、予め2cGyの低線量X線を照射した細胞に3Gy照射した場合には再結合の効率は非照射細胞とほぼ同程度であり、再結合能の低下は見られなかった。さらに、再結合の誤りの頻度について検討したところ、非応答状態の細胞に3Gy照射した場合には非照射細胞とあまり変わらない頻度であったが、適応応答状態の細胞に3Gy照射すると非照射細胞に比べて約50%程度誤りの頻度が低下した。従って、低線量を予め照射された細胞は、照射されていない細胞に比べてその後の高線量の照射に対して再結合反応の効率は高く、しかも再結合時の誤りは低いことが明らかとなり、低線量放射線を予め照射することによりDNA2本鎖切断修復能が高い状態が誘導されるものと考えられる。誤った再結合反応によって生じたプラスミドDNAを解析したところ、3Gy照射では種々の大きさの欠失が生じていたが、2cGyを予め照射した後3Gy照射したものの大部分では大きな欠失が見られなかった。従って、再結合反応の誤りは、低線量照射によって頻度が低下するだけでなく、質的にも大きな変化が生じ、高線量照射の効果が大きく低減されることが明らかとなった。
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