SCID(severe combined immunodeficiency)遺伝子をhomoに持つマウスは、T、B細胞を欠き、重度な先天性の免疫不全を起こすだけではなく放射線に対しても2重鎖切断の修復に不備があるために高感受性を示すことが知られている。そこで、生物反応とは無縁の物理学的現象の変化を定量する従来の線量計ではなく、この2重鎖切断を指標にした、より放射線の生物影響の本質に則した、微量放射線のヒトへのリスク評価に有用な生物線量計の開発を試みた。 C.B17・SCIDおよびC.B17・マウスのそれぞれの胎児から樹立されたSCID遺伝子座のみ異なる2種類の細胞株のそれぞれの培養細胞を用いて137Cs-γ線の高線量率(1.105Gy/min)、低線量率放射線照射(0.00069Gy/min=1Gy/Day)による障害の差異の検出を試みた。その結果、DNA二重鎖切断を修復できないSCIDマウス培養細胞では、放射線照射後の回復が全く見られず、低線量率でも明らかに野生型のCB.17マウス培養細胞より線量依存的に生存率が低く、さらに放射線による障害を長時間、よく保存することがわかった。そして、SCIDマウス培養細胞が生物線量計として充分に利用できることが裏付けられた。 さらに、terminal deoxynucleotidyl transfrase(TdT enzyme)を用いてDNA切断端の3'-OHを認識し、digoxigenin nucleotide triphosphateを付加し、免疫蛍光染色を施して、細胞内DNA二重鎖切断箇所の可視化および定量する方法の確立を試みた。しかしながら、TdT enzymeの細胞膜透過性、多量塩基の付加能力等の問題から検出可能な蛍光シグナルを得るには至らなかった。今後は、さらに染色法方を改良するとともに別の手法による二重鎖切断量の定量が検討課題である。
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