突然変異誘発にはDNA損傷が直接関与する機構以外に、損傷が誘導した遺伝的不安定性が2次的に引き起こす突然変異生成の機構の存在が明らかになってきた。本研究では、マウスとショウジョウバエについて遺伝的不安定性により間接的に誘発される突然変異を解析した。 1)マウスでの解析 8週齢のC57BL/6N雄マウスの精子期に6GyのX線を照射して、同じく8-10週齢のC3H/HeNマウスと交配し、生まれたF1マウスのマウスミニサテライトPc-1配列の突然変異頻度をしらべた。その結果、母親由来の配列の突然変異頻度は、非照射群で9.8%であったものが、精子照射により20%に上昇した。これは、精子により持ち込まれたDNA損傷が受精卵・初期胚で遺伝的不安定性を誘導し、その結果として父親由来のみならず母親由来ミニサテライト配列についても突然変異を誘発したことを示している。 2)ショウジョウバエでの解析 X染色体上にあるwhite遺伝子座の欠失突然変異w株雄を照射して直ちに重複突然変異w-iv(white-ivory)株の雌ショウジョウバエと交配した。生まれたF1でのwhite-ivory遺伝子座の突然変異による赤眼色スポット(復帰突然変異)を検索したところ、精子への照射線量に依存して復帰突然変異頻度の上昇がみられた。この系の雄で検出される眼色突然変異は、すべて雌親由来のX染色体にあるwhite-ivory遺伝子座における突然変異である。そのため、この結果は精子照射により照射をうけていない雌親由来のw-ivアレールの突然変異が誘発されたことになり、マウスと同様に精子が持ち込んだDNA損傷が発生途上の胚において遺伝的不安定性を誘導し、これが遅延突然変異を誘発したことを示す結果である。
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