研究概要 |
本研究では、PCBの薬物代謝酵素誘導効果発現における3-メチルスルホン(3-MeSO_2)代謝物の役割とその毒性を評価する目的で、健常人の母乳、肝臓及び脂肪組織、アザラシ、鯨、ミンク、北極グマなどの多数の野生ホ乳動物の組織中に比較的高濃度に蓄積が認められる4、5及び6塩素化体を中心として13種の3-MeSO_2-PCBs、3種の4-MeSO_2-PCBs及び3種のPCBsを合成した。 10種の3-MeSO_2-PCBsは、cytochrome P450およびb_5量、aminopyrine、aniline、benzo[a]pyrene代謝活性に特徴ある上昇が認められた。それらの中で9種の3-MeSO_2誘導体は、代謝活性を増加させる酵素基質の種類がphenobarbital(PB)と類似し、3-methylcholanthreneとは異なってこること、PB誘導性P450分子種CYP2B1、CYP2B2量を増加させることなどから、PB型誘導剤であることが示された。さらに、これらの2,5-dichlorophenyl骨格を有する3-MeSO_2誘導体のPB型酵素誘導効果の発現には4′位に塩素置換基を有することが必須であるなどの化学構造と酵素誘導能とに明確な相関が認められた。 また、CYP2B1/2の誘導作用の特に強力な3-MeSO_2-2,2′,4′5-tetrachlorobiphenyl(tetraCB)、3-MeSO_2-2,2′,4′,5,5′-pentaCB、3-MeSo_2-2,2′,4′,5,5′,6-hexaCB及びそれらの4-MeSO_2誘導体は、親PCBとほぼ同程度のラット肝上皮IAR20細胞のギャップ結合細胞間コミュニケーションの抑制作用を示した。これらの3-MeSO_2誘導体はCYP2B1/2の誘導作用を示すが、4-MeSO_2誘導体はその効果を持たないことから、MeSO_2誘導体のCYP2B1/2の誘導作用の強さと細胞間コミュニケーションの抑制作用とに相関は認められなかった。また、細胞間コミュニケーションの抑制と発がんプロモーション活性とに相関があることが報告されていることから、今回検討したPCBのMeSO_2代謝物はラット肝発がんプロモーターとして作用することが示唆された。
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