本研究は、オゾンホールの形成にともなう紫外線(UV-B、波長290-320nm)増加によるイネ(japonica種)に対する影響を評価するための基礎的な研究を目的とした。これま本研究を行うに当たり、絶対的なDNA損傷量を算出できるアガロースゲル電気泳動法と画像解析法を新たに取り入れた。平成9年度は、DNA損傷量の算出法の検討と、lndica種の、紫外線感受性種(surjamkhi)と紫外線抵抗性種(SC-6)でUV-BによるDNA損傷と修復の実験を行い、ほぼ満足する結果をえた。次いで、平成10年度は、まずjaponica種のササシグレ、コシヒカリ、ササニシキ、農林1号、ハツニシキの5品種を紫外線をカットしたファイトトロン(東北大、共同利用施設)用いてUV-Bを照射し、DNA損傷をCPD形成量として調べた。紫外線(UV-B)によるDNA損傷の度合いはいずれも同程度であったが、紫外線感受性のササシグレと農林1号は、他の3種にくらべて光回復能が弱がった。これらの結果から、紫外線感受性は光回復能に依存していることを示唆し、イネの紫外線感受性を評価する上で修復能を明らかにすることは重要な因子となることがわかった。 次いで、ササニシキとササシグレの各生育段階について、第1-2葉の時期、3-4葉、5-6葉の時期の紫外線に対する感受性について調べた。この結果、1-4葉までのDNA損傷の度合ならびに修復能は、ほぼ同じだが、5-6葉以後は2割ほど減少した。この理由は、この時期には葉緑体の増加や細胞の肥厚により核DNAに到達する紫外線量の減少が挙げられる。今後、日本で栽培されているイネの紫外線抵抗性すなわち修復能をできるだけ多く調べ、その結果を基に新しい品種を開発することによって増加する紫外線に対処できるものと考えられる。
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