本研究はは、放射線によってプラスミドDNAに誘発される、クラスタード・ダメージの実証的研究を行うことを目的としている。具体的には、最も単純なクラスタード・ダメージとして、主鎖切断が一つも無い閉環状プラスミドDNAから、相対する2本の主鎖の近傍に1個づつ1本鎖切断(以下ssbと省略)が生じた結果誘発される2本鎖切断(以下dsb)を対象とした。成果は以下の通りである。(1)主鎖切断の測定法として採用したアガロース電気泳動法では、相対する2本の主鎖に1個づつ2個のssbが近傍に生じるとdsbと判定され、離れて生じると見かけ上ssbと認識される。しかし、このssb間隔に関する閾値は実験的に調べられたことがない。我々は新しい実験手法を開発して、実際に用いている実験条件下で、dsbとして判定される2個のssbの最大間隔が10塩基程度であることを初めて実験的に明らかにした。(2)ssbおよびdsb誘発のLET依存性について調べた。乾燥プラスミドDNAにLETの違う放射線を照射して、ssbとdsbを定量し、dsb/ssb比を指標として解析した。放射線として、物構研PFで得られる2.147keV単色X線(15keV/μm)、放医研HIMACで得られる^<6+>C線(13〜700keV/μm)を用いた。LETが13〜15keV/μmだと放射線の種類によらず、dsb/ssbは0.025程度であった。LETの上昇と共に、dsb/ssbが増大して、ブラッグピーク(720keV/μm)で0.84まで上昇し、ピークを越えると1より大きくなった。このように高いdsbを初めて示す事ができた。今回の結果は、ブラッグピーク近傍の炭素イオンが作る2次電子のエネルギーが低くく、2次電子による主鎖切断の寄与が小さいために、イオンによる主鎖切断が浮き彫りにされたものと解釈できる。クラスタード・ダメージ研究にとって、」ブラッグピーク近傍での研究の重要性を明らがにした
|