本研究は、湿原の乾燥化、あるいは湿原涵養水や土壌の組成の変化等の人為活動の地下水質さらに湿原植生への影響を評価し、保全対策を提案することである。調査対象湿原を、北海道の代表的な湿原であるサロベツ湿原と霧多布湿原とし、1997年〜1998年に前者で7回、後者で6回の調査を実施した。サロベツ湿原は、戦後の農地開発に伴う灌漑排水と農地造成事業によって激減し、残された地域もささの侵入によって存亡の危機にある。霧多布湿原においても土地開発や道路建設の影響が自然の植生の変貌として徐々にその影響が認められるようになった。研究代表者らは、湿原地下水や周辺水域の河川や湖沼の水質、湿原の土壌質、そしてミズゴケやササの繁茂状況を調査した。その結果、従来の地下水位を中心とした水文学的知見に加え、化学的にも人為活動の影響が湿原生態系に及んでいることが明らかになった。すなわち排水が地下水位の低下と泥炭の乾燥化を招き、さらに泥炭の分解による栄養塩濃度の上昇を引き起こしたこと、土地造成による土壌の湿原への混入が土壌中のリンや珪酸含量が著しく高くなることがわかった。これらの化学組成の変化が、植生に影響を与えていることも推測された。サロベツ湿原においては、まさしく農地排水が泥炭の分解による無機態栄養塩濃度の増加させてササの侵入を促進し、土壌の混入がササの生育の発達を促進していることがわかった。ササに代表される湿原への異質な植物の侵入を抑制するためには水位の低下はもちろん、湿原外からの物質の混入を阻止しなければならない。
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