研究概要 |
サイトカイニンは、植物組織の培養細胞技術の開発途上で見出された植物ホルモンの総称であり、極低濃度で植物細胞に対し増殖や分化の制御に関わっている。 ココナッツミルク(Cocos nucifera L.)にはサイトカイニン活性があることが知られており zeatin,zeatine ribosido(ZR)などがサイトカイニン活性物質として単離された。しかしながら、1,3-diphenylureaを含めたいずれの化合物も、その単独の含有量からココナッツミルクのサイトカイニン活性全体の1%未満しか説明できない。 申請者は、ココナッツミルク中の主サイトカイニンの探索を、タバコカルスを用いた生物検定法を指標として行い、新規サイトカイニンG_3R_2-ZRを単離し構造式を決定した。この化合物の活性と含有量からG_3R_2-ZRがココナッツミルク中の主サイトカイニンであると結論した。 G_3R_2-ZRは水溶性であり、安定性も高い。成熟発芽過程において、G_3R_2-ZRがどのように関与しているか、水溶性・安定性に対して糖鎖はいかなる役割を担っているのか、その生物学的意義を究明することは、サイトカイニンの生理作用に対する理解に貢献するのみならず、使いやすく安定な植物ホルモンの供給への道を開くものと期待される。 ココナッツの各成長熟成段階でのG_3R_2-ZRの分布と含量を分析し、種子胚の発育とサイトカイニンの貯蔵体および活性体との関連性を探究するために、高速液体クロマトグラフィーによる安定した定量分析の条件検討を行うと共に、成熟度別・組織別ココナッツ試料の入手方法の調査を行っている。一方、G_3R_2-ZRは細胞内で加水分解されzeatinとして活性発現に携わっているものと予想される。糖鎖とサイトカイニン活性との関連性についてG_3R_2-ZR誘導体を作成して検討を行っている。
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