細胞表面を覆っている糖タンパク質や糖脂質などの糖鎖は細胞を外部から見分けるための認識分子として重要な役割を果たしている。これらの糖鎖は細胞膜上の異なるドメインに局在的に存在し、クラスター構造をとることが明らかにされた。このクラスター構造をもつ糖鎖がどのような組織化された構造を持ち、細胞間の情報伝達や分子認識を行っているのか、その機構解明を目的として固相合成を利用した糖鎖の合成について検討を行った。固相合成法は、従来の液相合成と比較すると反応終了後に簡単な洗浄操作で過剰な試薬や副生成物を除去できるため、面倒な糖鎖の精製過程を大幅に簡略化できることから、糖鎖合成の効率化をはかることができる。また、固相上で糖鎖を合成することにより、擬似的に糖鎖のクラスター構造を再現可能であると考えられる。固相合成を行うにあたり、ポリマー部と糖鎖部をつなぐリンカーの選択が重要になる。そこで酸で容易に切り出し可能なp-アルコキシベンジルアルコールをリンカーとして用いることにした。まずリンカーをフッ化糖の6位水酸基に導入し、リンカー部のカルボン酸とアミノメチルレジンのカップリング反応により糖鎖を固相に担持した。固相上でフッ化糖のグリコシル化反応を行い、トリフルオロ酢酸を用いて固相から糖鎖の切り出しを行ったところ、単一物としてグリコシル化生成物を得ることに成功した。また、糖鎖クラスター構造を解明するために、分子動力学計算を用いて糖鎖の水溶液中のコンホメーションについて検討を行った。合成した3糖のNMR測定で得られたケミカルシフトのデータと溶媒効果を取り入れた分子動力学計算の結果を比較検討したところ両者はよく一致し、分子動力学計算が糖鎖クラスター構造を解明する上で有効な方法論になることが明らかになった。
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