糖脂質糖鎖構造解析の迅速・簡便化を目指したナノエレクトロスプレーイオン化LC/MSの改良を試みた。従来用いられてきたFABMSあるいはSIMSによる糖脂質糖鎖の構造解析法は、MS/MSを用いることなく迅速に糖鎖構造情報が得られる点で常用手段となっている。しかしながら、近年イオントラップMSなどの登場により低価格で操作が容易なMS/MS装置を設置できるようになってきた。高感度なイオン化法であるナノエレクトロスプレーと組み合わせることができれば、現在のFABMSやSIMSに取って代われるとともに、単離精製まで至らない試料に対してもLC/MS/MSにより糖鎖構造解析の道が開けることになる。本研究ではハロゲン系溶媒を含むスプレー溶媒を用いて負イオンエレクトロスプレーを行うことが糖脂質分析に適していることがわかった。正イオンモードでは、分子関連イオンがプロトン化分子とナトリウム付加分子の二つに分かれてしまい高感度分析に不利であるが、負イオンモードでは脱プロトン化分子だけが現れるので高感度分析に適していることがわかった。負イオンモードのスプレー溶媒としては含塩素系溶媒が、グロー放電を引き起こしてエレクトロスプレーを不安定にするスプレー液滴中の電子を除去するのに有効であることがわかった。特にクロロホルムは糖脂質の順相系クロマトグラフィー溶媒としてよく用いられており好都合である。負イオンを効率よく生成させるためにはアンモニアやモノメチルアミンなどの塩基物質の添加も効果的であることがわかった。また、ナノエレクトロスプレーをLC/MSに適合させるにはLCの精確な流量制御が現状では困難なことや、内径がマイクロメーター程度のスプレーノズルの目詰まり対策が難しいことがわかった。実用的には、内径数十から50マイクロメートルのスプレーノズルがマイクロLC/MSに適しているようである。マイクロLCに用いるHPLCポンプはマイクロリッター送液に適した専用ポンプが必要となることもわかったが、現状ではコストの面で従来機種を用いることになった。LCカラムは溶融石英キャピラリーを用いて作成することで、カラム出口をスプレーチップ直前に配置し、溶出バンドの拡散を軽減させる計画であったが、ケイ酸カリウムを用いて形成するフリットの安定な作成ができず、現在も試行錯誤中である。
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