研究概要 |
糖鎖リモデリングによる増殖因子シグナル制御機構の解析を行った。ラットのβ-1,4-N-acetylglucosamyltransferase III の遺伝子gnt3をラット褐色細胞腫細胞のPC12に導入し、細胞の糖鎖のリモデリングを行い、糖鎖改変宿主細胞における神経成長因子NGFによる分化誘導への応答性を検討した。その結果、gnt3発現ベクターを導入したPC12細胞では、gnt3遺伝子産物であるGntIII酵素の作用による特徴的な枝分かれ構造が確認された。本細胞にNGFを作用させると、成長速度の変化ならびに神経突起の伸長は認められなかった。NGF受容体であるTrkのチロシンリン酸化について検討したところ、本細胞ではコントロール細胞では見られるリン酸化が起こっていなかった。さらに、NGF受容体から核へのシグナルの伝達に必須な本受容体の二量体形成も起こらなかった。本細胞へのNFGの結合はコントロールと比べて変化がないことは結合実験によって確認している。以上の結果は、gnt3の発現によってTrkの糖鎖がリモデリングを受け、その結果NGFが結合した際に必要なTrkの構造変化が起こらず、核へとシグナルが伝達されるのを阻害していることを示唆している。現在、糖鎖がいかにしてTrkの機能に影響を与えるのか検討中である。また、cAMPによって肝癌細胞にgnt3遺伝子を誘導すると、細胞膜に局在すべき蛋白の糖鎖が変化するが、その結果正しい膜への選別が起こらなくなることも確認している。この結果は、細胞膜蛋白の糖鎖は細胞膜への局在化にも関わっていることを示唆している。
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