本研究では、我々がこれまでの研究で全く新しい概念の糖鎖結合性抗生物質であることを明らかにした、抗HIV作用や抗真菌作用を示す非蛋白質性の有機化合物Pradimicin Aおよびその誘導体BMY-28864をリードコンパウンドとして、より有効な糖鎖結合性抗HIV剤を開発するとともに、糖鎖に着目した細菌感染やウイルス感染の防御・治療法を確立するためのドラッグデザイン情報を得る目的で、構造は明らかであるが糖鎖結合性も抗HIV作用も不明な17種のPradimicin A誘導体について、糖鎖結合性、結合糖鎖特異性、結合の親和性などを、HIVのウイルス糖蛋白質gp120や様々な天然糖蛋白質、人工糖蛋白質、人工糖脂質を用いて詳細に調べた。その結果、調べた17種類のPradimicin A誘導体のうちの4種類の誘導体がPradimicin AやBMY-28864と同様の糖鎖結合性を示し、しかもそのうちの3種類はそれらよりも強い結合親和性を有していることを見いだした。これらの知見は、この物質が糖鎖結合性物質であるとともに、抗HIV剤としても大変有望であることを意味している。また、糖鎖結合能を有するこれら4種類の構造の明らかな誘導体のうち、一つが抗真菌作用を有していなかったため、今後は、これらの物質の構造と糖鎖結合能および生理作用の関係を詳細に調べるとともに、HIVのgp120糖鎖分子内の識別部位を詳細に調べることにより、抗HIV剤のドラッグデザインに必要な分子内部位に関するより精密な情報が得られるものと思われる。さらに本研究では、真空系という限られた条件下での計算ではあるが、糖鎖結合物質Pradimicin Aの安定なコンフォメーションを求めることができた。そのため、今後は、本研究で得られた知見が、より強力で有効な糖鎖結合性抗HIV剤の開発のために重要なドラッグデザイン情報となるものと思われる。
|