神経芽腫細胞の中にはオリゴ糖鎖に反応して神経突起を伸展するものがある。この反応は特異的受容体により仲介されると推測されるが、その生化学的実体は不明である。本研究は、糖鎖受容体の生化学的な解析とcDNAクローニングを目的とした。 GT1bガングリオシド由来のオリゴ糖鎖を多価で含むプローブの大量合成を行った。GT1bオリゴ糖鎖は、ウシ脳のGT1bガングリオシドよりオゾン分解-アルカリ処理法にて調製した。このオリゴ糖をストレプトアビジンと還元アミノ化法により結合した。1分子当たり13本の糖鎖の結合を確認した。合成されたGT1bストレプトアビジンの複数分子を架橋することにより“多価性糖鎖プローブ"を作製した。架橋分子としてはアルブミンに多数のビオチンを結合したものを使用した。11分子のGT1bストレプトアビジンが架橋され、140本の糖鎖を持つプローブが作製された。架橋反応に先立って、ビオチン化血清アルブミンを放射性ヨードでラベルしておきラベル化プローブを作製した。本プローブは糖鎖を多価で含有するので神経芽腫細胞へ高親和性で結合すると期待された。そこで本プローブを用いて受容体の検索を行った。その結果、神経芽腫NG108細胞は、このプローブに対してKd値=540 pMを示す受容体を持つことを見いだした。また、細胞外液にプローブを加えると細胞内のカルモジュリン依存性プロテインキナーゼII(CaMKII)が活性化されることを見いだした。したがって、NG108細胞はGT1bオリゴ糖鎖に対する受容体を持ち、受容体にGT1b糖鎖リガンドが結合すると細胞内CaMKIIが活性化されることがしめされた。
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