高ホモシステイン血症は内皮細胞傷害をひき起こす。我々はホモシステイン刺激によりヒト血管内皮細胞で発現が変化する遺伝子をディファレンシャルディスプレイ法を用いて調べた。その結果、6種の遺伝子の発現が上昇し、1種の遺伝子の発現が低下していた。このうち、転写が上昇する新規の2つの遺伝子をクローニングし、RTPおよびHerpと名付けた。RTPは394残基から成る細胞質蛋白質であり、C末端領域に10アミノ酸残基から成る3回の繰り返し配列をもっていた。RTPの転写はホモシステインやメルカプメエタノールといった還元剤や糖鎖合成阻害剤(ツニカマイシン)により上昇した。RTPをグルタチオンSトランスフェラーゼとの融合蛋白質として大腸菌で発現させ、この組換え体を用いて抗体を作成した。抗体を用いてRTPの動態を調べたところ、RTPはヒト血管内皮細胞中に58KDa蛋白質として存在し、ホモシステインによりその蛋白量は増大した。また、RTPはリン酸化蛋白質であることが判明した。RTPは血管内皮細胞の増殖期ではその量が多くリン酸化型が優勢であったが、増殖停止期では量が減り、かつ脱リン酸化型が優勢であった。RTPのリン酸化は細胞周期に同調していなかった。以上のことから、RTPは細胞増殖のシグナル伝達に関与する可能性が示唆された。Herpは391残基から成る膜蛋白質であった。HerpもRTPと同様に還元剤や糖鎖合成阻害剤で転写が上昇したので、ホモシステインは細胞内のレドックスポテンシャルを変化させて、ある種の遺伝子発現を上昇させることが示唆された。これらの結果から、血栓症や動脈硬化症の危険因子であるホモシステインは、RTPやHerpといった遺伝子発現をひき起こすことが判明した。
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