研究概要 |
私たちが1994年に初めて見つけた糊代を持ったタンパク質に関する基礎研究の一環として,種々の動物の遺伝子を詳細に解析し,その出来方を分子進化学的に推定した。得られた結果は以下に要約するように大変興味深く,この分野の研究の一つの集大成になるものと期待される。糊代部分にセメントインという名前を付け,その由来について分子生物学的手法を駆使して種々検討しているが,最近の研究で,類似の分子がいくつか存在しファミリーを作っていることが明らかになったので,総称してトラッピンと呼ぶことを提唱した。働き場所にセメントイン領域を介して共有結合でトラップされてとどまり,機能するという意味を込めた命名である。これまでのブタの解析に加え,同じイノシシ科(Suidae)のペッカリ-やイボイノシシ等のトラッピン遺伝子を単離し,構造を決定した。その結果,繰り返し配列から成るセメントイン部分の長さは種や同じ種でもトラッピン分子の種類によって大きく異なるが,由来はRESTと呼ばれるトランスグルタミナーゼの基質をコードしている遺伝子にあるらしいことが明らかになった。糊代部分の後にある機能部分は,SLPIと略称されるプロテアーゼインヒビターをコードしている遺伝子に由来するらしいことも明らかになった。これらのことは,トラッピン遺伝子がREST遺伝子とSLPI遺伝子間のエクソンシャッフリングによって出来たことを強く示唆する。実際これらの遺伝子が染色体上で近接した位置にあることがブタの染色体DNAのYACクローンを用いて確かめられた。
|