研究概要 |
本研究では、神経細胞におけるニューロトロフィンによるTrkファミリーレセプターを介した分化誘導と生存維持のシグナル伝達機構を解明することを目的としたが、まず生存維持シグナル伝達機構を解析した。Trkファミリーレセプターの活性化とphosphatidylinositol 3-kinase(PI3-K)の活性化の間に働いているシグナル伝達タンパク質の解析と、PI3-Kの下流のAkt(Aktキナーゼ)のさらに下流の過程を解析した。 1、 Trkファミリーレセプターを介したPI3-Kの活性化機構の解析 BDNFによるTrkBレセプターを介したPI3-Kの活性化に関与するシグナル伝達タンパク質の同定を行った。既に、TrkB連発現PC12細胞や培養大脳皮質ニューロンや小脳顆粒細胞において抗PI3-K抗体で共沈するチロシンリン酸化タンパク質を数種類見い出している。これらドッキングタンパク質として、培養大脳皮質ニューロンではIRS-1(insulin receptor substrate-1)とIRS-2が主として働いていること、それら以外にSHP-2も働いている(Grb2も関わっているかも知れない)ことを見い出している。他にも、約95kDaのチロシンリン酸化タンパク質を検出している。一方、培養小脳顆粒細胞においては、約95kDaのチロシンリン酸化タンパク質が主として働いていることが明らかとなり、このタンパク質は抗Gabl抗体で沈殿することからGab1(Grb2-associated binder-1)であることが同定された。Gab1は、N末端にPH(pleckstrin homology)ドメインを持つドッキングタンパク質であり、Trkファミリーレセプターによりリン酸化されて、PI3-Kの活性化に働く主要なシグナル伝達タンパク質と考えられる。さらに、小脳顆粒細胞でのBDNF刺激では上述したGab1が主として働いているが、IGF-1刺激ではIRS-1,-2が主として働いていることが分かった。これらのことは、同じ細胞でのPI3-Kの活性化であっても、別のリガンド-レセプター系によっては別のドッキングタンパク質を介して活性化が引き起こされること、つまりドッキングタンパク質の使い分けがあることを示している。 2、 PI3-Kの下流のシグナル伝達機構の解析 培養小脳顆粒細胞において、PI3-Kの下流でAktが働いているが、そのさらに下流にはJNKの活性抑制とc-Junの発現抑制があることが分かった。今後は、Aktの活性化からJNKの活性抑制に至るシグナル伝達経路の解析を行う予定である。
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