研究概要 |
一般に酵素は「1酵素1基質」であると信じられてきたが、高度好熱菌 Thermus thermophilus HB8アミノ基転移酵素は,酸性基質および疎水性基質の全く性質の異なる2種類の基質に対して活性を示す「1酵素2基質」の特異な酵素であることがわかった。しかも,酸性基質に対す基質特異性は非常に高いが,疎水性基質に対しては非常に基質特異性が低く,基質の表面積に比例した親和性を示した。この基質認識機構を理解するために,蛋白質工学的方法で活性部位に存在するアミノ酸残基を置換して,基質との反応過程を解析するとともに,1.8A分解能におけるX線結晶解析を行った。酸性基質の認識に関しては,これまでの研究から「酵素が基質の-COO^-を認識する場合には,Arg残基が必須でありLysでは代用できない」と考えられてきた。しかし,T.thermophilsuアスパラギン酸アミノ基転移酵素(T.th.AspAT)のX線結晶解析の結果,意外にも,Lys109が基質側鎖の-COO^-の認識を行っていることが明らかになった。また,疎水性基質の認識に関しては,意外なことに,T.th.AspATのLys109をSerへ置換すると,基質の側鎖に-COO^-を持つ酸性基質に対するは減少したが,中性基質,中でもトリプトファンに対する活性は野生型酵素より約1万倍も上昇した。その理由は,野生型酵素で酸性基質を認識するLys109は疎水性基質の結合にとって大きな障害になっているか,あるいは,Lys109が存在することにより,疎水性基質の結合に適した構造変化ができない,のいずれかであることが示唆された。
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