研究概要 |
一般に酵素は「1酵素-1基質」であると信じられているが,高度好熱菌Thermustherm0philus HB8 アミノ基転移酵素は,酸性基質および疎水性基質の全く性質の異なる2種類の基質に対して活性を示す「1酵素-2基質」の特異な酵素である。しかも,酸性基質に対す基質特異性は非常に高いが,疎水性基質に対しては非常に基質特異性が低く,基質の表面積に比例した親和性を示した。この基質認識機構を理解するために,高度好熱菌アスパラギン酸アミノ基転移酵素(T.th..AspAT)の活性部位に存在するアミノ酸残基を蛋白質工学的方法で置換した。得られた変異型酵素と基質,特に酸性基質,との反応過程を解析するとともに,1.8A分解能におけるX線結晶解析を行った。その結果,酸性基質の_-COO^-を認識に関与していたのは,Lys109,Ser14,Thr16などであり,Argではなかった。これまで,常温生物のアミノ基転移酵素から得られていた結果から「酵素が基質の_-COO^-を認識する場合には,,Arg残基が必須でありLysでは代用できない」と予想していたが,Lysでも代用できることが明らかになった。しかし,同じ酸性基質を認識する際の,高度好熱菌酵素と常温酵素との違いは,常温酵素は分子が柔らかいために基質結合に伴って2つのドメインが相対的に大きく動いて基質を溶媒から隔離するのに対し,高度好熱菌酵素は,分子全体が固いために1本のα-へリックスだけを大きく動かして同じ目的を果たしていることが明らかになった。
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