筋萎縮性側索硬化症(ALS)は運動神経の選択的傷害をきたす進行性変性疾患で、ほとんどの症例が発症後5年以内に死亡し、早急な病態解明と治療法の開発が待たれている。この疾患は遺伝性で、家族性ALS(FALS)は第21染色体に存在する銅・亜鉛スーパーオキシドジスムターゼ(SOD1)の遺伝子異常によることが明らかにされている。山陰地方で発見されたFALSは、SOD1遺伝子上に2塩基欠損が存在し、結果としてフレームシフトによるその後の翻訳過程の誤りと、さらには終始コドンの出現により、本来のタンパク質よりも23アミノ酸分が欠如した短いタンパクが生成してしまう。 変異SOD1は大抵の場合活性が低く、不安定であり、さらに最近の知見によれば、大腸菌にも銅・亜鉛SODが存在するので、SOD1をマルトース結合タンパク質との融合タンパクとして発現できるプラスミッドを構築した。融合タンパク状態でSOD1タンパク部分が安定化されることと、アフィニティクロマト法によって、ホストのSODと区別できる利点がある。正常SOD1、変異SOD1ともに融合タンパク状態で活性を示した。アフィニティカラムから溶出された正常画分はSDS-PAGE上で、SOD1に相当する位置に活性バンドを示した。変異SOD1の発現は融合タンパク部位の発現で確認された。しかし変異SOD1のタンパク部分はその後の精製過程において容易に分解され、バンドとして検出されるに至らなかった。構造モデルの解析から変異SOD1は二量体形成部分が欠如しており、活性を発現できる構造が取りにくいこと、また構造上極めて不安定なことが想定された。従って、変異SOD1の生成は銅イオンの結合能力の低下、不安定なSOD1からの銅の解離により、細胞内銅濃度が上昇し、フェントン反応によるヒドロキシルラジカル増産が病態に関係すると結論された。
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