研究概要 |
生物界に普遍的に存在しエネルギー獲得機構にとって不可欠なATP合成酵素(F_1F_0)は、8種のサブユニットからなる複雑な高次構造を持ち電子伝達系で形成されるベクトリアルな水素イオンの酵素内の移動をATP合成のエネルギー源とするユニークな機能発現機構を有している。この酵素は逆反応としてATPを加水分解して得られるエネルギーを利用してH^+を排出するポンプ機能も有している。しかし、このエネルギー共役の機構の分子レベルでの解明はなされていない。本研究では、(1)モーター構造が存在するとしてその構造の基礎をなす大腸菌ATP合成酵素のサブユニットの分子間相互作用を、これまで結晶構造の情報もなく解析の進んでいないγ,δ,ε及び膜結合サブユニットa、b,cに力点をおいて、新たな手法をもちいて明らかにする。また、(2)F_1-ATPase部分のうち特に活性発現の最小単位であるαβγ複合体がγサブユニットを軸とするモーター構造を有することを、回転を視覚化することにより検証する。これらの成果に基づき仮説を実証し、生物分子モーターの構造的実体を明らかにする。以上の2点を研究の目的に設定した。 本年度、(1)については、研究の進捗が著しく、試験管内再構成系とサブユニットの部分ペプチドを用いる分子集合阻害実験、モノクローナル抗体を用いたサブユニット相互作用部位の解析、酵母のtwo-hybrid法を用いた解析、の3つの新たな方法論を本酵素のサブユニット相互作用解明において導入することに成功した。此の結果、αβγサブユニット相互作用、b-δ相互作用を明らかに出来た。とくにこれまで明らかではなかったb-δ相互作用がF_1とF_0の連結に重要であり回転機構の支持構造を形成する可能性について示した事は1997年のゴ-ドン会議でも高く評価された。以上の結果を4編の英語論文として発表した。(2)については、東工大のグループが回転の可視化に成功し発表した。本研究では可視化に必要な本酵素の固相への固定化に成功した。この固相化の仕方は東工大グループものとは異なり、独自のアイデアに基づくもので、今後の研究進展に貢献するものと考えられる。
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