研究概要 |
研究業績の概要:ATP合成酵素(F_1F_0)は、8種のサブユニットからなる複雑な高次構造を持ち電子伝達系で形成されたベクトリアルな水素イオンの酵素内の移動をATP合成のエネルギー源とするというユニーク機能発現機構を有し、生物界に普遍的に存在する。この酵素は逆反応としてATPを加水分解して得られるエネルギーを利用し、H^+を排出するポンプ機能を有している。しかし、このエネルギー共役の機構の分子レベルでの解明はなされていない。本研究の課題では、大腸菌ATP合成酵素のF_1-ATPase部分のうち特にαβ複合体がγサブユニットを軸とするモーター構造を有することを、回転を視覚化することにより検証するための基礎的研究をすること。またモーターを形成するATPaseサブユニットの分子間相互作用を新たな手法をもちいて明らかにし、生物分子モーターの構造的実体を明らかにすることである。 平成9,10年度に渡り得られた成果は、(1)回転を可視化するための材料として固相に固定するATPaseの再構成系の確立を目指し、これに成功した(FEBSLett.427,64-68、).すなわち、精製したα,β,Hisタグを付加したγサブユニットを作製し試験管内で再構成し、活性ある複合体を作製できた。この複合体は、固相に結合する事ができ高い活性を持つことから、これまで試みられていない、γを固定した回転の可視化が初めて可能となった。(2)本酵素の膜結合性サブユニットの一つであるbサブユニットの細胞質への突出部分をもつ融合タンパク質を作製し、これにも再構成を行う実験系を確立できた。これらの実験系を用いて当初の目的である回転の可視化の系を確立する目途がたった。(3)本酵素のなかで立体的なサブユニットの配置が未解明なストーク領域についてサブユニットの相互作用を調べるために新たに酵母を用いるTwo-hybrid系を確立してある(B.B.A.(1996)1274,67-72).この系を用いてbとδサブユニットの相互作用異常変異を分離することも可能となった。(4)γとεとの相互作用部位を明らかにした。これらの研究成果は、ATP合成酵素の回転機構を支える構造を理解する上で、貴重なものと考えられる。
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