生理的なpHである中性領域では、ヒト肥満細胞中に存在するトリプターゼはヘパリンにより活性型の4量体として存在し、生体内に存在するセリン性プロテアーゼ阻害剤に対して耐性を持っている.生理的条件下で、4量体のトリプターゼからヘパリンを除去すると中性領域では直ちに不活性の単量体に変換し、再びヘパリンを加えても活性型の4量体には戻らない。 本研究において、一度不活性になった単量体のトリプターゼが生理的条件下で活性型の4量体に変換する可能性を調べたところ、酸性条件下ではヘパリンの存在に依存しないでトリプターゼは不活性の単量体から活性のある4量体に変換することを明らかにした。単量体から活性のある4量体に変換する至適pHは6.0であったことから、この変換にはトリプターゼ分子内のHis残基が重要な働きをしているものと推察した。また、至適塩濃度は160mM NaClで至適温度は22度から37度であった。これらの至適条件も生理的な範囲であった。次に、トリプターゼの活性型と不活性型の相互変換は、トリプターゼの局在部位である肥満細胞の分泌顆粒内で起こる可能性があるので、肥満細胞の分泌顆粒内に含まれるヘパリンなどのプロテオグリカンやヒスタミンがトリプターゼの活性型と不活性型の相互変換に影響を及ぼしているかどうかを調べたところ、酸性条件下で起こる不活性の単量体から活性の4量体に変換する際にはヘパリンなどのプロテオグリカンなどを必要としなかった。また、再度、活性型になったトリプターゼが分子内の修飾やプロセシングを受けているかどうかを検討した。FPLCによる分子ふるいカラムを用い、トリプターゼの分子量の変化を指標として検討した結果、不活性の単量体から活性の4量体に変換したトリプターゼの分子量は約12万と推定され、分子量からみたトリプターゼの更なる修飾やプロセシングはないものと推定された。
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