研究概要 |
リポ酸はグリシン開裂酵素系のH蛋白およびピルビン酸,α-ケトグルタル酸,分岐鎖ケト酸脱水素酵素複合体のアシルトランスフェラーゼの補酵素である。リポ酸を蛋白に結合させるリポ酸転移酵素はウシ肝臓から精製する過程でI型とII型のアイソフォームに分離される。両者のN末端アミノ酸配列はI型のN末端にAsnが付加されている以外はII型と同一であった。ウシとヒトのリポ酸転移酵素のcDNAをクローニングして以下の結果を得た。 1)ウシのII型酵素のN末端領域アミノ酸配列を基に合成したヌクレオチドをプローブに用いて得たcDNAは1119base pairsのopen reading frameを含み、373アミノ酸より成る前駆体蛋白をコードしていた。成熟型蛋白は347アミノ酸より成り,分子量は38,903で肝臓から精製した酵素の分子量とよく一致した。ウシのリポ酸転移酵素を大腸菌中で発現させ,精製後ウサギに免疫してその抗体を得た。肝臓から精製したリポ酸転移酵素I型およびII型の抗体との反応性に差異はなく、NorhermおよびSouthern blot analysesの結果とも合わせて,I型とII型は同一遺伝子・転写産物からの生成物であり,前駆体蛋白がミトコンドリアに移入した後のプロセシングの違いによってI型とII型が生じたものと結論づけられた。 2)ヒトのcDNAも同じく1119base pairsのopen reading frameを含み,373アミノ酸より成る前駆体蛋白をコードしていた。前駆体蛋白は27アミノ酸のmitochondrial presequenceと347アミノ酸の成熟型蛋白より成っていた。ヒトのリポ酸転移酵素のアミノ酸配列はウシのリポ酸転移酵素および大腸菌のlipoate-protein ligaseとそれぞれ88%および32%の相同性があった。現在,ヒトのリポ酸転移酵素の遺伝子の構造を解析中である。
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