1.ラット肝から分離されたオートリソゾーム膜には、N末端のアミノ酸配列から、3つの新奇なポリペプチドと考えられる成分が見出された。それぞれ最初の5つのアミノ酸配列をもとに、APIAG蛋白、YVAEK蛋白、KISGQ蛋白と呼ぶこととする。最も主要なKISGQ蛋白は分子量32kの成分である。KISGQ蛋白は、YVAEK蛋白のN末端からYVAEの4つのアミノ酸が切断されたものであることが分かっている。KISGQ蛋白のN末端のアミノ酸10残基からなるペプチドを合成し、ペプチド抗体を得、イムノブロットを行ったところ、抗体はKISGQ蛋白およびYVAEK蛋白のみならず、APIAG蛋白にも反応し、この3者が共通のプロ体からプロセスされたものである可能性が示唆された。 2.3者のうち分子量の最も大きいAPIAG蛋白(44k)と小さいKISGQ蛋白のアミノ酸配列をもとにオリゴヌクレオチドプライマーを合成し、ラット肝のmRNAに対してRT-PCRを行い、得られたDNA断片の塩基配列を決定した。その塩基配列はAPIAG蛋白、YVAEK蛋白、KISGQ蛋白の全てをコードし、APIG蛋白のN末端から数えて88番目からYVAEKISGOという配列に連なることが判明した。この配列はごく最近cDNAの全塩基配列が決定されたベタイン・ホモシステインメチルトランスフェラーゼ(BHMT)のものと一致した。 BMHTは肝臓のサイトゾルに豊富に存在する酵素であることから、オートファジ-において基質蛋白としてオートファゴゾームに取り込まれ、オートファゴゾームがオートリソゾームに熟成する過程で分解され残ったものが保持され、オートリソゾーム膜に結合していたと考えられる。ところで、YVAEK蛋白はオートリソゾームよりも密度の軽い膜分画にはるかに多く局在し、この膜分画がオートファゴゾームからオートリソゾームへの中間体であるという興味深い可能性が示唆された。当初期待したオートファゴゾームの膜マーカーという可能性は否定されたが、BHMT(APIAG蛋白)がYVAEK蛋白を経てKISGQ蛋白に分解される過程はオートファジ-の機構と密接に関連し、その意味でオートファジ-のモニターとして有益な情報を得ることが出来ると期待される。
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