研究概要 |
本研究ではモデル生物として注目される線虫Caenorhabditis elegansのゲノムプロジェクトを題材に、ガレクチンという糖鎖認識蛋白質の機能解明を目指し、高等動物では困難なholisticな科学研究に取り組む。すなわち、総てのガレクチン候補遺伝子(cDNA)を単離し、構造・機能相関、発現位置や遺伝子機能の分化に対する手がかりを掴むべく系統的解析を行う。本年度の成果を要約する。 1)ガレクチン遺伝子情報の収集 Internetを通して線虫ゲノム情報を収集し、ガレクチン関連遺伝子検索したところ、既知のガレクチンを含め全部で10種のガレクチン関連遺伝子をピックアップし、これらをCel-I-Xと命名した。 2)発現の確認と組み換えタンパク質の生産 RT-PCRによって目的遺伝子の発現量を比較し、つぎにcDNAライブラリーから目的の全長クローンを単離した。ゲノム情報との比較からイントロン挿入位置などの確認を行った後、発現プラスミドをPCR法を利用して構築しアシアロフェツイン-セファロースに対する結合を調べた。その結果、Cel-I,II,III,VIなど既知のガレクチン、及びこれらと相同性の高い(>80%)ガレクチンには強い結合活性が認められたが、Cel-IV,VIIIなど相同性の低いガレクチンでは結合力もやや弱いか、Cel-IXの様にはほとんど活性が検出できなかった。このことは、遺伝子進化における分散性を示唆している(Cel-V,Cel-Xについては末検定)。一方、Cel-VIIには予測読み枠とは全く異なるスプライシングが起こっていることが発見され。フレームシフトにより短鎖ペプチドのみが発現されているものと予想された。こういった例はゲノムプロジェクトによって初めて実体が明らかにされるため、今後遺伝子進化、議遺伝子生成の謎を探るきわめて重要な発見と考えられる。 3)内在性レセプター糖鎖の同定 線虫のガレクチン(Cel-VI)を固定化したカラムを用い、C.elegansおよび回虫の膜画分から糖鎖リガンドを吸着させた。6gの虫からおよそ0.4mgのリガンドが得られ、両画分とも高分子量の糖タンパク(>100kDa)を主成分としていた。このレセプター糖蛋白質についてさらに構造解析を進めている。
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