研究概要 |
ナメクジ連合学習の神経回路メカニズムを研究する一環として、同期的膜電位振動が存在する嗅覚中枢(前脳)の細胞内Ca濃度の時空間パターンを測定・解析した。 1. Ca感受性蛍光色素による脳組織の染色と差分計測法の応用:脳組織のCaイメージングの場合には細胞間隙の残存色素による背景光が増大するため,ダイナミックレンジの広いカメラを必要とする。我々は差分計測型のカメラシステムを用いて蛍光強度の変化分だけを増幅して記録することにより解決した。差分計測型のカメラシステムは,本来,膜電位感受性色素の蛍光強度の微小変化を計測するために開発されたシステムであるが,Caイメージングにも有用であることが明らかとなった。また検討したCa感受性蛍光色素の中ではrhod-2で染色した場合が最も良い結果が得られた。 2. 膜電位振動との比較対応:Ca蛍光色素の蛍光強度の振動は前脳の細胞体層で強く観察された。伝播の方向は膜電位振動と同じであり,先端部から基部へと伝播していた。Ca振動と膜電位振動の時間経過を比較したところ,Ca振動のピークは膜電位振動の脱分極ピークにやや遅れるものの,1対1に対応することがわかった。このことはrhod-2の蛍光強度の増加が神経興奮に伴う細胞内カルシウム濃度の上昇を反映している事を示唆している。 3. 臭覚性入力繊維の電気刺激の影響:細胞体層の時空間パターンを2次元的に見るためには、神経突起層の興奮に起因する蛍光変化が少ないことが望ましい。そこで,神経突起層に投射する触角神経束を電気刺激して,神経突起層と細胞体層の蛍光強度変化を比較した。その結果,神経突起領域における蛍光強度増加は細胞体層に比べてかなり小さく,postrerior viewで観測した場合にも入力繊維の活動により増強された興奮の伝播が細胞体層ではっきりと観測された。
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