長い時間をかけた分子進化の結果、進化的に隔てられた生物の相同タンパク質のアミノ酸配列は、大きな違いが見られる。例えば、酵母とウマのシトクロームc(cyt c)では、約45%のアミノ酸配列が異なっている。しかし、X線結晶解析により明らかにされた、その立体構想は非常に良く似ている。立体構造を変えないアミノ酸置換だけが進化的に選択されてきたためとこれを解釈もできる。あるアミノ酸置換が立体構造の変化を引き起こしたとしても、それに続くアミノ酸置換がこれを打ち消していると解釈もできる、後者の場合、、アミノ酸配列の異なる相同タンパク質のハイブリッド分子は、立体構造が不安定化する可能性がある。本研究では、このような可能性を調べるため、ウマと酵母のハイブリッドcyt cの立体構造の安定性を親分子と比較した。ウマcyt cを臭化シアンでMet部位で切断して得た1-65断片とペプチド合成により得た酵母cyt cの配列を持つ66-103断片をインキュベートして、ウマ-酵母ハイブリッドcyt cを半合成した。分光スペクトルの特徴からハイブリッド分子は親分子と同じ立体構造を持つことが推定された。グアニジン塩酸塩による変性曲線の測定結果より、ハイブリッド分子の立体構造は、両親分子の中間の安定性を持ち、親分子と同程度の協同性で安定化されていることが分かった。また、イミダゾールのハイブリッド分子に対する結合定数も、両親分子の中間の値になった。この結合定数は、第6配位座近傍の局所構造の不安定性を反映している。したがって、ハイブリッド分子は、局所構造についても、その安定性は親分子の中間になっている。以上の結果は、ウマcyt cと比較したときに、ハイブリッド分子の66-104配列で見られる12個所のアミノ酸置換は、もとの立体構造を大きく変えることなくその部位で受容されたことを意味する。さらに、これらのアミノ酸置換は、全体的な立体構造と局所的な立体構造の安定性に対して、相加的に寄与していることを示唆する。
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